TERRENCE CHESTERFIELD

テレンス・チェスターフィールド

テレンス・チェスターフィールド TERRENCE CHESTERFIELD

ライアビリティ

インテル

両親の目からみれば、テレンス・チェスターフィールドは完璧な子だった。絵を描かせても、文を書かせても、天才的に映った。母親は大家族出身のオフィス・ワーカーで、（自分よりずっと贔屓されていた）兄たちの影響を逃れようともがいていた。テレンスの父親は、高度な専門教育を受けていたが、退屈なお役所仕事ではそれを活かす機会がなかった。二人にとって、息子の存在は、お互いに価値を見出し、自分たちの不安を和らげてくれる、承認の証だった。

努力せずとも褒められるという環境で育ったチェスターフィールドは、成長にも、技能の向上にも、堅実に働くことにも嫌悪感を示した。検査士として軌道に乗れたのも、父親がコネを使って奔走したのと、母親が少しでも経歴をよく見せようと頑張ったおかげでしかないのだが、その職に伴う重責を彼は全くないがしろにしていた。仕事を減らし、少しでも早く帰宅してお気に入りのテレビ番組が見られるように、とことん手を抜く方法を編み出した。

当然ながら、彼同様に可能な限りペーパーワークを減らしたがっていた土地所有者、不動産所有者や管理者などをたくさん味方につけた。自ら賄賂を求めなかったのがせめてもの救いだろうか。ぐるっと敷地内を見て回って終わる、うわべだけの検査を行う「10分間のテレンス」は人気となった。

しかし、問題が起きるのも時間の問題だった。残念ながらチェスターフィールドは、ルーデス・ストリートの集合住宅が崩壊した時には影響を受けなかったし、彼が一週間前に検査したばかりのアパートが天然ガス爆発で吹き飛んだ時も非難されなかった。被害者救済基金が調査するまでは、彼とのつながりさえ見つけられなかったという。

裏では、チェスターフィールドは聞く耳を持つ連中に対して、これらの事故は保険金詐欺が絡んでいて、被害者までも一枚噛んでいる例も少なくないと言いふらしている。公の場では、地元の不動産オーナー組合がつけてくれた弁護団が、あの手この手を使って容疑を晴らしてくれる。そしてチェスターフィールドはいつも通り仕事へ向かうのだった。