NOEL CREST
ノエル・クレスト
水の中の影
インテル
ノエル・クレストは、傭兵団の二番手に過ぎなかった。ある日、チャンスが訪れるまでは。隠密行動と重要物品や書類、データの破壊に特化していた彼は、次第に隠ぺい工作や、時には隠ぺいされる前に必要なものを回収する腕前で頭角を表していった。慎重であることを誇りに思っていたので、時間をかけて計画を練り上げ、必要なことをすべて検討し、万全に用意した。それに情報量の多いことでも有名だった。
これだけの慎重さを持ち合わせていたので、おのずと一流のクライアントがつくようになった。しかし、それだけのコネとフィクサーとしての能力にもかかわらず、傭兵団のリーダーであるルーカス・グレーからは遠ざけられていた。ところが、残念なことにグレーの選んだ片腕たちは順番に47に殺害され、クレストが傭兵団のリーダーの座を奪うのを邪魔するものがいなくなった。
しかし、彼にはそこまで野心的でも、リーダーの器があったわけでもない。中西部で育ったクレストには安心感を持つことがなかった。実際の家族からは十分に世話をされず、安定に欠けていた。家族はとても貧しく、物心ともに満たされなかったクレストは、非常にたやすく地元の犯罪組織に染まっていった。その当時はクレストはまだ若くて小さかったので、なんとか上の者にかわいがってもらおうと躍起になっていて、危険を冒すことも顧みなかった。脅迫材料を探しに人の家に侵入する役割をさせられることが多く、犬用の小さな扉や窓の隙間から家に入り込んで、書類や、（金庫破りの技を身に付けた後は）金庫の中身を漁った。この経験と、その後得られた賞賛が大きな自信となり、隠密の技を磨くことにつながった。犬用の入口から体をねじ込むには大きくなりすぎたころには、そんなことをしなくてもよいだけの技術を身に付けていた。
彼は金持ちやスキャンダルに翻弄されるセレブ等にこっそりとサービスを提供するようになり、常に小さな黒い手帳を危うい立場の要人や怪しいことをしそうなエリートの一覧で埋め尽くしていた。毎回少しずつ上を目指すことを覚え、次第に彼の仕事はより大きく、より派手になっていった。ライバル事務所からの依頼で法律事務所のデータベースから重要情報を消したり、クライアントの悪事を隠ぺいするために警察の押収品から証拠になる品を回収したり、時には犯罪現場から証拠をすべて消し去るようなこともした。どの仕事もやるたびに難易度が上がっていき、その分報酬も上がっていった。彼の技術は銀行の預金残高と比例して上昇したが、それでも、上の者に認められたいという彼の承認欲求は満たされることがなかった。
グレーは彼をその腕前と、グレー曰く、誰かに率いてもらいたいという彼の欲求を満たすために雇い入れたが、リーダー不在となった時、クレストは従うことに明らかに疲れ果てていた。今は傭兵団に残されている資産をより大きな強盗団として仕立てて、その過程で自分たちの影響力を回復させるだけでなく、より強いものにしようとしていた。そのためにはマラッカ海峡（世界の船舶の40%が通行する）を牛耳る、影響力の強い海賊一味と手を結ぶ必要があると考えていた。デルガド・カルテルの損失により、傭兵団の機動性は著しく損なわれていたため、アッカの神出鬼没のシンジケートはそれを回復させ、加えてその地域での自分たちの活動のよい隠れ蓑になると思われた。実際、彼らはクレストが欲しいものすべてであるのだ。
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